2013年08月28日

夏目漱石 こころ (四十九 「私は突然Kの頭を抱(かか)えるように~) (ショップ:楽天ブックス)

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■青空文庫から『こころ』を一部抜粋
四十九

「私は突然Kの頭を抱(かか)えるように両手で少し持ち上げました。私はKの死顔(しにがお)が一目(ひとめ)見たかったのです。しかし俯伏(うつぶ)しになっている彼の顔を、こうして下から覗(のぞ)き込んだ時、私はすぐその手を放してしまいました。慄(ぞっ)としたばかりではないのです。彼の頭が非常に重たく感ぜられたのです。私は上から今触(さわ)った冷たい耳と、平生(へいぜい)に変らない五分刈(ごぶがり)の濃い髪の毛を少時(しばらく)眺(なが)めていました。私は少しも泣く気にはなれませんでした。私はただ恐ろしかったのです。そうしてその恐ろしさは、眼の前の光景が官能を刺激(しげき)して起る単調な恐ろしさばかりではありません。私は忽然(こつぜん)と冷たくなったこの友達によって暗示された運命の恐ろしさを深く感じたのです。
 私は何の分別(ふんべつ)もなくまた私の室(へや)に帰りました。そうして八畳の中をぐるぐる廻(まわ)り始めました。私の頭は無意味でも当分そうして動いていろと私に命令するのです。私はどうかしなければならないと思いました。同時にもうどうする事もできないのだと思いました。座敷の中をぐるぐる廻らなければいられなくなったのです。檻(おり)の中へ入れられた熊(くま)のような態度で。
 私は時々奥へ行って奥さんを起そうという気になります。けれども女にこの恐ろしい有様を見せては悪いという心持がすぐ私を遮(さえぎ)ります。奥さんはとにかく、お嬢さんを驚かす事は、とてもできないという強い意志が私を抑(おさ)えつけます。私はまたぐるぐる廻り始めるのです。
 私はその間に自分の室の洋燈(ランプ)を点(つ)けました。それから時計を折々見ました。その時の時計ほど埒(らち)の明(あ)かない遅いものはありませんでした。私の起きた時間は、正確に分らないのですけれども、もう夜明(よあけ)に間(ま)もなかった事だけは明らかです。ぐるぐる廻(まわ)りながら、その夜明を待ち焦(こが)れた私は、永久に暗い夜が続くのではなかろうかという思いに悩まされました。


■『こころ』などの著作権が切れている作品は青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)でも読むことができます。
タグ:夏目漱石
posted by 47735 at 02:33| 小説 | 更新情報をチェックする

2013年05月01日

こゝろ改版 夏目漱石 角川文庫 (ショップ:楽天ブックス)

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■青空文庫から『こころ』を一部抜粋
 私はどこでも構わなかった。ただ先生を伴(つ)れて郊外へ出たかった。
 一時間の後(のち)、先生と私は目的どおり市を離れて、村とも町とも区別の付かない静かな所を宛(あて)もなく歩いた。私はかなめの垣から若い柔らかい葉を※(「てへん+劣」、第3水準1-84-77)(も)ぎ取って芝笛(しばぶえ)を鳴らした。ある鹿児島人(かごしまじん)を友達にもって、その人の真似(まね)をしつつ自然に習い覚えた私は、この芝笛というものを鳴らす事が上手であった。私が得意にそれを吹きつづけると、先生は知らん顔をしてよそを向いて歩いた。
 やがて若葉に鎖(と)ざされたように蓊欝(こんもり)した小高い一構(ひとかま)えの下に細い路(みち)が開(ひら)けた。門の柱に打ち付けた標札に何々園とあるので、その個人の邸宅でない事がすぐ知れた。先生はだらだら上(のぼ)りになっている入口を眺(なが)めて、「はいってみようか」といった。私はすぐ「植木屋ですね」と答えた。
 植込(うえこみ)の中を一(ひと)うねりして奥へ上(のぼ)ると左側に家(うち)があった。明け放った障子(しょうじ)の内はがらんとして人の影も見えなかった。ただ軒先(のきさき)に据えた大きな鉢の中に飼ってある金魚が動いていた。
「静かだね。断わらずにはいっても構わないだろうか」
「構わないでしょう」


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2013年03月16日

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■目次
バルタザアル/大川の水/「ケルトの薄明」より/未来創刊号/老年/紫天鵞絨/桐/春の心臓/薔薇/青年と死と/客中恋/若人/クラリモンド/砂上遅日/ひょつとこ/松江印象記/羅生門/松浦一氏の「文学の本質」に就いて/鼻/編輯後に/孤独地獄/父/虱/酒虫/翡翠/校正後に/仙人/薄雪双紙/野呂松人形/芋粥/猿/創作/校正後に/手巾/出帆/ジアン、クリストフ

■目次
老年/青年と死/ひょっとこ/仙人/羅生門/鼻/孤独地獄/父/虱/酒虫/野呂松人形/芋粥/猿/手巾/煙草と悪魔/煙管/MENSURA ZOILI/運/尾形了斎覚え書/道祖問答/忠義/貉/世之助の話/偸盗/さまよえる猶太人/二つの手紙
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